家の印象を大きく左右する一つが屋根だと思います。
ここでは街中の木造住宅でよく見かけるものを挙げています。自作の画像が思いがけず小さいですが、印象の違いを見ていただければと思います。
メリット・デメリットと分けて列記した方が見やすいのですが、建てる家の形によって、周りの環境、風土によっても違いますし、お施主さんの好みも大事にしたいので、敢えてツラツラと書き記します。
今、プランを提示してもらっているが、どうも屋根の形が気に食わない…という方にも屋根の種類や間取りを変えると見た目が全然変わってくるんだということを分かっていただけたらな…と思います。
切妻屋根(きりづまやね)
家を描いてと言われて、だれもが描く、一番オーソドックスな屋根です。薄い本を開いて伏せたような形です。
屋根の一番上の棟(むね)から、左右斜めに下がって軒(のき)があり、正面と裏側に妻(つま)がきます。妻がスパッと切られたような形から、切妻(きりづま)という名前が付いています。
家の壁より出ている部分を、軒側が軒の出(のきので)、妻側が妻の出(つまので)と言います。この軒の出、妻の出の長さが変わるだけでも家の印象が変わります。
最近はヨーロッパの家のように、軒の出、妻の出を出さない、オレンジ屋根で白壁の家が増えています。
オシャレですが、軒の出、妻の出を出さない分、雨風によって汚れやすくなります。逆に、長くすると太陽の光がさえぎられ、昼間も暗い家になったり、頭でっかちな重たい印象を与える家にもなります。
とてもシンプルなつくりで、雨漏りの心配も少ないです。材料のそつ(無駄)も少なく、安く済みます。逆に安っぽく見えるかもしれませんが、真四角な家ではなく、L字型にすると
このような屋根にもなります。継ぎ目が増える=雨漏りの心配も増えるわけではありますが、 特に左側のように切妻屋根を垂直にくっつけるような屋根にすると安っぽいという印象はなくなると思います。
ちょうど上の図両方の屋根がくっついた形の切妻屋根の写真がありました。↓
切妻の仲間には他にもこんな屋根もあります。
大屋根(おおやね)・本棟(ほんむね)
東京都にある、木造モダニズムの傑作と言われる、建築家・前川國男邸を例に挙げました。
大屋根とは、家の長手を正面に見て、左右均等に流れを作った切妻屋根のことを言います。
1階、2階共に屋根が存在する場合、1階の屋根を下屋(げや)、2階の屋根を大屋根ということもあり、”大屋根”に2通りの意味が存在しているので、
『本棟(ほんむね)』と呼んだ方が通じやすいかもしれません。
私の印象では土地が広くあり、和風のつくりを好む農家さんなどに多いです。広い土間、囲炉裏なども似合います。天井を高くできる他、大きな小屋裏を設けることもできます。昔はその小屋裏で、養蚕(ようさん)をしたり、干し柿を作ったり、そういう場として使われることが多かったです。
への字屋根
こちらは大屋根の棟部分が左右どちらかにズレており、文字通り“への字”、“逆への字”の屋根です。こちらも大屋根同様、大きな小屋裏を設けることができ、屋根の短い側は天井高も確保できるため、部屋を設けることができます。
大屋根の家より、わりと洋風な家にも合い、 太陽光発電もたっぷりのせられるので人気があります。
※ 部屋と小屋裏の違いは天井高の違いです。天井高 1.4M以上あれば部屋。それ未満なら小屋裏です。この違いは建築面積にも関わるため重要で、固定資産税にも関わってきます。
ただ、世の中には仮の天井を作り、”小屋裏”として届け出、登記が終わり、税務署が固定資産税の判定を終えた後に天井をぶち抜き、部屋として使うこともあります。怪しげな仮の天井を作っていても、今のところ税務署は察してくださいます^^;
半切妻屋根(はんきりづまやね)・はかま腰屋根(はかまこしやね)
切妻屋根の棟の妻側が少し斜めに流れを付けた屋根です。ドイツ屋根とも言われ、ドイツでも見かける形ではありますが、日本よりドイツでは屋根勾配(屋根の流れの角度)がキツイです。下がドイツの写真ですが、屋根勾配は7寸くらいではないでしょうか。右端に『ドイツ屋根』の家があります。
日本での屋根勾配は4寸勾配、4.5寸勾配が多く、画像も4寸勾配で作りました。ドイツっぽさを求めるなら、勾配をキツくして、軒の出、妻の出を少なくするといいと思います。
日本の勾配で作るとこういった屋根になります。前の会社ではこの屋根の名前を誰も知らず、『ヘルメット屋根』と呼んでいましたw丸みが出て、かわいらしい印象ですが、黒色にするとまたシマリも出ますね。
北側斜線という建築基準法の日照に関する決まりに対応するため、“間取りを変えずに屋根を削って対処する”という時にもよく使用します。
腰屋根・越し屋根(こしやね)
切妻屋根の棟部分に、もう一つ切妻屋根を乗せたような屋根です。あかり取りや風通しのためのもので、窓には自動開閉の装置を付けたりもするため、一般住宅というよりは体育館や大きな施設などによく見られます。
ドーマー
屋根の中に作る、小窓を付けた屋根のことです。
上図のように切妻形のものは街中でもよく見かけます。腰屋根同様あかり取り、風通しのためのものです。ヨーロッパ風の雰囲気が出るため、好んで付けたいというお施主さんもいます。角部屋以外に窓が付けられないアパートなどにも多いです。
下の写真のように本体の屋根勾配より緩い片流れ屋根に小窓が付いているものもドーマーと呼びます。
ログハウスに多いです。上の写真と違う家ではありますが、ドーマーの中はこんな感じです。↓
左側の窓の部分がドーマーです。本来なら屋根の勾配は壁の斜めに入った濃い材木の部分なので、ドーマーのおかげで天井高も確保できています。
寄棟(よせむね)・方形(ほうぎょう)
四方全てに流れがある屋根です。家の形が長方形だと左のような形。
正方形だと一番上に入る棟木(むなぎ)がなくなり、方形(ほうぎょう)と呼ばれます。公園の休憩スペースなどの東屋(あづまや)に多い屋根です。屋根の形だけ見ればピラミッドのような形というと分かりやすいでしょうか。
一世代前のハウスメーカーの家に多く、品よく、バランスも良く見えます。風にも強い屋根です。
四方に流れがあるため、樋もくるっと一周付けなければいけませんし、材料のソツ(無駄)も多いです。太陽光パネルを乗せるには向きません。雪も四方に落ちます。よく言えば分散して落ちます。
間取りのガタガタしている家だと、
このように細かく、複雑に、たくさんのパーツに分かれます。継ぎ目が多くなれば雨漏りのリスクも増えます。材料費も多くなります。
なので、寄棟希望の方は間取りもチェックしてみてください。
ちなみに同じ間取りを切妻にするとこんな感じで、わりとスッキリします。
2階建ての場合、1階、2階の間取りが全く一緒の場合、ずんどうな家になり、2階にしか屋根が付きませんが、2階の間取りが1階より小さい場合、下屋が付きます。下屋を作るのもバランスの良い家を作るポイントでもあります。
左側の家に、ポーチの柱を一本建てるだけでも、屋根はこんなにスッキリします。
入母屋(いりもや)
上が切妻、下が寄棟になった、最も複雑な屋根です。昔ながらの日本家屋に似合います。茶室やお寺にも多く、高級感が出ます。
構造が複雑な分、雨漏りの心配もあります。切妻の部分の下、壁がくる三角形の部分に鳥が巣を作ってしまうこともあり、掃除など、メンテナンスにもそれなりにお金がかかります。三角部分を金網で覆っている家も見かけます。
上の画像では入母屋に“照り(てり)”が付いています。照りとは、屋根をそらせることです。軒先を見ると上に跳ね上がっているのが分かると思います。
片流れ(かたながれ)
1枚の屋根を斜めに伏せた屋根です。最近増えている屋根です。太陽光パネルをたくさん乗せることができます。 切妻屋根よりも材料費など安く済みます。
先に出た切妻屋根の勾配のまま片流れにすると棟はカナリ高くなり、大きな小屋裏も設けることができます。
←同じ勾配→間口の長さにもよりますが、1階建ての家は2階建て、2階建ての家は3階建てくらいの高さになるので、ご近所トラブルに気を付けてください。
トラブル回避の方法としては、
勾配を緩くしたり、
段違いにして左右に流れを作るなど…こんな屋根でも片流れ屋根と呼ばれます。
段違いにした場合、下屋(げや・下側の屋根)と大屋根(おおやね・上側の屋根)の間の壁の部分に、あかり取り・風通しの窓を設けることもできます。
パラペット
見た目、壁がまっすぐ立っているだけに見えます。緩い勾配の片流れの屋根があり、雨が流れる側以外の3方が屋根を隠すように壁になったものです。
スッキリした見た目で他の家と雰囲気の違う家になります。屋根の出(庇・ひさし)がない分、風には強いですが壁は汚れやすいです。勾配が緩いので雪の多い地域には向きません。
パラペットよりも真っ平な『陸屋根(りくやね)』という屋根もありますが、木造向きでないため敢えて触れません。屋上庭園、家庭菜園などを作る次世代の建築として、取り入れている工務店もありますが、私としては頼まれても雨漏りが心配で希望にお応えできません。ご希望であれば、陸屋根のきちんとした技術と経験を持っている工務店に頼んだ方が良いと思います。